ここでは、「有酸素運動」「無酸素運動」とうつ病、運動をすることで体内で、脳内で、何が起こっているのか、その簡単なメカニズムをご紹介します。
運動には大きく分けると
- 有酸素運動
- 無酸素運動
2つが存在します。
どちらの運動もストレスの解消やうつ病に効果的だとされています。
あなたが心理療法や投薬以外の治療でうつ病を克服したいと考えているときは、運動を実践してみてはいかがでしょうか?
のんびりとカラダを動かしたい人は有酸素運動を
有酸素運動というのはダイエットなどで良く出てきます。
歩くことだけでも運動に効果がある
ウォーキングや軽いジョギングなど、カラダに大きな負担をかけない運動のことです。
一方で無酸素運動とは、ダッシュやトレーニングなどの比較的大きな負担を体にかける運動のことです。
ココロにもカラダにも、人にはそれぞれ特徴があります。運動が得意ではない人はもちろんいます。
そんな人には有酸素運動をオススメします。
出来る限り継続できる強度で
有酸素運動を行う際には、負荷をかけずに「この程度で大丈夫?」と思う程度の運動で問題ありません。
例えば、ウォーキングであれば、歩いて1分程度では全然運動している気分にならないです。
でも30分、40分、と続けているうちに、じんわりと汗をかいてきます。
特に運動が嫌いな人は、有酸素運動でも良いのでカラダを動かすことを意識しましょう。
直ぐに効果を感じたい人は無酸素運動を
有酸素運動は、じわじわと運動していることを感じます。
一方で運動が得意な人は無酸素運動を積極的に行いましょう。
強度を上げることを意識しよう
無酸素運動とはダッシュなどの瞬間的に大きな力を使う運動です。
近年、パーソナルトレーニングなどで流行っている筋力トレーニング(筋トレ)も無酸素運動となります。
有酸素運動と違って「無酸素運動は直ぐに効果を感じる」ことができます。
その鍵は「エンドルフィン」や「セロトニン」といった物質に関係しています。
「エンドルフィン」は別名「脳内麻薬」とも言われ、エンドルフィンには「αエンドルフィン」「βエンドルフィン」「γエンドルフィン」があります。
体内からモルヒネを出してストレスを解消できる
このなかで特にβエンドルフィンはモルヒネと同じような作用を持っています。
筋トレをすることで危機を感じたカラダはその危険を感じなくするようにβエンドルフィンを脳内に出すわけです。
このβエンドルフィンにモルヒネの作用や、ストレスを解消する機能があるのです。
つまり、無酸素運動によって、脳内からβエンドルフィンが出せることが出来れば、それは間違いなくうつ病に効果があると言えるます。
うつ病の対策に運動療法を取り入れよう
うつ病の治療には、投薬や心理カウンセリング(認知行動療法)などが存在します。
いずれもうつ病の治療には効果を持っています。
薬による治療は不安になることもある
でも、薬で治療をしている人であれば、
心理カウンセリングに通っている人であれば、
といった不安をわずかでも感じたことがあるでしょう。
予防的な意味では運動の効果は非常に高い
いま現在、うつ病で悩み苦しんでいる人たちに、直ちにお勧めできる療法ではないでしょう。
ただし、うつ病の「予防」という意味では運動であるカラダを動かすことは効果を持っているでしょう。
継続が効果を持っている
但し、この運動療法も「続ける」こととその続ける意思が大前提になってしまうので、
いま現在心身の不調で苦しんでいる人や運動が嫌いな人には難しい側面もあります。
でも、投薬を継続することとは異なり、運動には副作用がありません。
気軽な気持ちで始めることをオススメします。
うつ病には多様な療法があって良い
例えば投薬療法が全ての人に当てはまるとしたらうつ病の治療は一本化されています。
でも、全ての人に当てはまる療法がないからこそ、様々な療法がうつ病対策として存在しているわけです。
この記事で紹介する運動療法もまた、もちろん全ての人に当てはまる療法ではないですが、
- 運動することが好きだった人
- カラダを動かすことが好きだった人
などはいるでしょう。
そのような人はうつ病の「予防」や「改善」として運動を取り入れてみてもよいでしょう。
なぜうつ病に筋トレ(運動)が効果的なのか?
厳密には、うつ病の“予防”には筋トレが効果的に機能する、という言い回しが正しいかも知れません。
そもそもうつ病の人がこの記事を読むと、「筋トレできるくらいなら、普通に生活します」といった思いを持つ人もいるでしょう。
運動のうつ病への効果は論文にも記載されている
ただ、大学の論文のなかにも運動のうつ病への有効性を示唆した論文があります。
論文のなかでは、治療の可能性はあるもののあくまでも補助的に運動療法が機能すると結論付けられています。
つまりうつ病の予防あるいは主療法の補完的な役割として、運動がうつ病に効果を持つことがあるとされています。
セロトニンって何?
セロトニンは別名、“幸せホルモン”と呼ばれています。
セロトニンは気分の安定に大きな影響を持っている物質です。
成人の体内では90%近くが腸管に存在しているとされ、残りの大部分は血小板と脳に存在しています。
セロトニンがなぜ幸せホルモンと呼ばれるのでしょうか?
それは、セロトニンにはネガティブな情動を打ち消したり、痛みを和らげたりする機能があるからです。
セロトニンと睡眠の関係
セロトニンは徐波睡眠であるNREM睡眠との関りもあります。
睡眠には、
- 急速眼球運動が生じ脳波が速い速派になるREM睡眠
- 脳波が高振幅になるNREM睡眠
の2つががあります。
運動を通じて、良質な睡眠を確保できればうつ病への効果も期待できるでしょう。
セロトニンと「気持ち」の関係は?
強いストレスでセロトニンの分泌量が低下すると攻撃性が高まったりうつ性を引き起こすことがあるとされています。
セロトニンが関係するNREM睡眠は睡眠時間の75%~80%を占めているとされ、筋緊張が低下するだけではなく呼吸や脳温も下降する一方で、成長ホルモンの分泌は増加します。
ネガティブな情動を打ち消してくれたり、痛みを和らげたりしてくれる幸せホルモンであり、NREM睡眠と関係があるセロトニン。
(参考:心理学辞典(有斐閣))
また、次のような内容が論文で発表されています。
『神経可塑性仮説では,ストレスへの曝露がコルチゾール分泌促進を介して脳由来神経栄養因子(BDNF)をはじめとする神経由来因子の産生を低下させ,特に海馬(CA1,CA3,顆粒細胞層)や前頭皮質などでの神経新生を減少させると考える。実際,MRIで撮像したうつ病患者の海馬体積は性別・年齢を一致させた健常者と比較して有意に低下していたというメタ解析結果が報告されている。うつ病患者の海馬体積と血中BDNF濃度が有意に相関するとの報告もある。うつ病では,このBDNFが低下しているために,神経新生やシナプス新生が低下しており,抗うつ薬・電気痙攣療法・経頭蓋的時期刺激療法などを行うと4~8週間で脳内BDNFの産生が増え神経可塑性が回復するという説明がうつ病の神経可塑性仮説である。すなわち,抗うつ薬投与によりモノアミンが増加する。セロトニンやノルアドレナリンの受容体を介したシグナルがsecond messengerやprotein kinaseおよびearly gene proteinのリン酸化を伴い,最終的にはBDNF mRNAやBDNF proteinを増加させることがうつ病の改善に関係すると考える。』(参照:Japanese Journal of Biological Psychiatry Vol.22, No.2, 2011)
セロトニンは「幸せホルモン」
つまり、ストレスによってセロトニンの量が減少すると精神が不安定になり、セロトニンの量が増加すると精神は安定するわけです。
運動をすることでと、血流・BDNF(脳由来神経栄養因子)は増加します。
筋トレは、そのBDNFを増加させることで脳の神経系は活性化させ、セロトニンの分泌量を増加させるするわけです。
「筋トレ→セロトニンの分泌量の増加→うつの予防」という流れになります。
これがうつ病に筋トレが効果を持っていると言われる所以です。
トレーニングの「質」で効果も変わる
筋トレをすることでうつ病の予防になることは科学的にも実証されているようです。
ただし、あまりこの類の記事には出てきませんが、実はうつ病に対して一定の効果を持つために大切なことの一つに筋トレのクオリティがあります。
トレーニングの質、「一定の高負荷」を確保しないと、なかなかセロトニンの分泌量は増えないでしょう。
やはり運動が得意ではない人はジョギングやウォーキングなどの有酸素運動がオススメになるでしょう。
運動はうつ病に効果的、βエンドルフィンとの関係
セロトニンは幸せホルモンと言われますが、βエンドルフィンは別名“脳内麻薬”と言われます。
このβエンドルフィンの持つ効果は、
鎮痛剤であるモルヒネの6.5倍の効果
とも言われます。
もちろん有酸素運動でも、15分以上の運動を続けることでβエンドルフィンは分泌されるようです。
βエンドルフィンと「ランナーズハイ」の関係
このβエンドルフィンの働きを示す言葉に「ランナーズハイ」という言葉があります。
これはマラソンのランナーがある一定の辛さを超えると気持ちよくなるという現象です。
実は筋トレにも「トレーニングハイ」という言葉が存在します。
マラソンと同じように、筋トレをして肉体に大きなストレスを与えることによって、βエンドルフィンは分泌されます。
これが「トレーニングハイ」の誘因になるわけです。
運動をしていて、過酷な状態になった時に不意に体が楽になり気持ちよくなったりする状態のことです。
過度なストレスから人は守られている?
つまり、カラダには、過度なストレスがかかると脳内の物質を分泌することで、その過度なストレスからカラダを守ってくれる機能が人には備わっています。
もし、ココロにも過度なストレスからココロを守ってくれる機能が備わっていたらうつ病になる人も少なくなるでしょう。
まとめ
現代社会は無数の情報に溢れています。
知りたい情報を取捨選択しながら、欲しい情報に対して比較的容易にアプローチすることが出来る時代になっています。
そんな時代だからこそ、情報の信憑性を精査する力が必要になりますね。
おそらく、あなたは「うつ病に筋トレが効果的なのか」という情報に興味を持って記事を読んでいるでしょう。
カラダとココロは密接に関係していると考えることはできます。
これは「絶対に効く!」という治療や心理療法がないため、多くの人がうつ病で困っている事実もあります。
ココロのメカニズムで解明されていないことは多いですが、カラダのメカニズムでは解明されていることが多いです。
そのため、時には「目に見えないココロにはカラダからアプローチする」必要性があるでしょう。
もし、うつ病を本気で予防したいと考えている人は、トレーニングを実践してみる価値はあると思います。
「運動をすると何かスッキリする!」という感覚だけで十分な価値があるでしょう。
「目に見えないココロにはカラダからアプローチ」してみてはいかがでしょうか?